わかばひふ科クリニック(東京都武蔵野市吉祥寺東町)

武蔵野市・杉並区・練馬区他の赤ちゃんから子供、大人、老人まで幅広く診察をする皮膚科クリニックです。アトピーやあざを始め、水虫、とひび、湿疹などの相談・治療を行なっています。

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茶のしずく

母乳石鹸のリスク

春になりました。

花粉も沢山飛んでいますね。

花粉症は今年はわるくなりそうですね・・・

 

さて、今回のお話は母乳石鹸のお話です。

母乳石鹸。初めて知りました・・・

 

母乳石鹸はどのようにして作っているのか?

詳しく調べてみると、石鹸の素と母乳を混ぜあわせ、必要があれば精油を入れて、

石鹸を固形化して作るみたいですね。

 

この母乳石鹸。過去の化粧品のトラブルを横目で見ていた人間としては少し心配です。

また、新しい接触皮膚炎や食物アレルギーのリスクにならなければ良いのですが。

 

じつは「また」と言ったのは先例があるからです。

それは「茶のしずく石鹸」です。

現在の製品とは成分が違い、過去の製品には「小麦の加水分解産物」が含まれていました。

この成分(正確にはグルパールS19と言います)のために、使用者が小麦アレルギーを発症してしまい、

大きな社会問題になりました。

現在はその成分の入った石鹸は回収対象となっています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/cyanoshizuku/index.html

 

この事件はさまざまな教訓を残しましたが、少なくとも私が感じたものは

「食物由来成分を皮膚に塗っちゃダメ」

というものです。

更に、石鹸という皮膚のバリアを壊す成分と一緒に入れることは、その食品に対する食物アレルギーを

発症するリスクを更に上げる行為とも考えられます。

それ以来、食品由来成分が含有されている化粧品は薦めないようにしていました。

 

 

さて、お話を戻しましょう。

母乳石鹸というくらいですから、成分の中には母乳が入っています。

この母乳ですが、当然のことながらお母さんが摂取した食品由来の成分も含んでいることが

考えられます。

したがって、その食物由来の成分が赤ちゃんのお肌から吸収されることがあれば、

理論上はその成分に対して食物アレルギーを発症する可能性もあるのです。

 

現時点ではそのようなアレルギーを起こす確率は不明としかいうことが出来ません。

しかし、全くゼロとも言い切ることが出来ない以上、

リスクが無いと言い切ることはどうかと思います。

 

あとは、作成される方はこのような可能性も有るということを考えた上で、

決断してほしいものだと思います。

 

 

 

追記

もう一つリスクが有りました。

精油成分です。

精油ももともと人体に存在しない成分であれば、接触皮膚炎を起こすリスクは否定できません。

特に皮膚炎を起こさない濃度を簡単に測定することは難しいために

濃度によっては精油によるリスクも検討すべきでしょう。

 

茶のしずく石鹸による小麦アレルギー発生事故の経過のお話2014 その2

さて、今回のお話は前回に引き続き、茶のしずく石鹸による小麦アレルギーについてのお話です。

今回は診断と治療についてのお話です。

・・・治療と経過については今までデータを入手していなかったので非常にためになりました。

 

なお、本項目は筆者のメモを中心にまとめたものであり、公式見解ではありません。

誤記や勘違いによるデータの間違いが含まれる可能性があります。

正確な情報を知りたい方は正式な文献や研究者に確認を取るようにしてください。

なお、この問題については近い将来にまとめたものについて一般のかたを対象にした発表の機会があるかもしれない

とのことでした。

 

診断のお話ですが、診断するのは比較的難しいものではありません。

というのもしっかりとした診断基準があるからです。

茶のしずく石鹸を使用したことがある。

アレルギー反応が起きたことがある

グルパール19Sによりアレルギー反応が誘発される

この3点です。

茶のしずく石鹸によるアレルギーでは、他の小麦アレルギーにはみられない、

グルパール19Sというはっきりした原因があるために診断は比較的容易なのです。

 

治療ですがこれは時間が解決してくれます。

というのも、グルパール19Sに対する抗体は時間とともに減少するからです。

半年くらいで半分になるとのことでした。

抗体の強さは症状の強さに影響を与えますから

このことは症状も徐々に良くなっていくということを示しています。

多くの人が少しずつですが小麦を食べることができるようになるとのことであり、

一安心できます。

しかし、飲み薬で劇的に症状が出ないように抑えるよいうこともできないようですね。

(症状が出た時には治療で抑えることはもちろん可能です)

 

 

しかし、まだ今後の課題も残されています。

・なぜアレルギー反応が出る人と出ない人がいたのか

・時間が経ってもアレルギー反応が収まらない人にはどうしたらよいのか

などは現在も研究が続いている分野です。

 

そして、化粧品に対する問題もあります

・食品由来の成分を化粧品に入れることについての是非

については今後の検討課題でしょう。

また、同様のケースが起きた場合にはどうすべきか

なども考えておかねばなりません。

 

茶のしずく石鹸の症状については現在少しずつ落ち着きつつあります。

しかし、考えるべきことがたくさんあることを知らされた事故でした。

 

最後に参考サイトを掲載しておきます。

詳しい情報を確認したい方は参照してください。

茶のしずく石鹸等による小麦アレルギー情報サイト

化粧品中のタンパク加水分解物の安全性に関する特別委員会 中間報告

茶のしずく石鹸による小麦アレルギー発生事故の経過のお話2014

今回のお話もその勉強会でのものです。

茶のしずく石鹸により、小麦アレルギーが誘発されてしまうという事故

2010年頃から発生し、翌2011年には茶のしずく石鹸の全面回収という結果に至りました。

 

現在マスコミなどの報道はもっぱら集団訴訟とその展開が中心となっていますが、

アレルギーの診察をする人間としてはその患者さん達についてのまとまった情報を知りたいと思っていました。

今回、医療者側で中心となって調査を行っていた、藤田保健衛生大学皮膚科の松永教授の講演がありましたので、

簡単にまとめてみたいと思います。

 

なお、本項目は筆者のメモを中心にまとめたものであり、公式見解ではありません。

誤記や勘違いによるデータの間違いが含まれる可能性があります。

正確な情報を知りたい方は正式な文献や研究者に確認を取るようにしてください。

なお、この問題については近い将来にまとめたものについて一般のかたを対象にした発表の機会があるかもしれない

とのことでした。

 

最初の患者さんの人数についてです。

今年の冬の時点で患者さんの数は約2000人強。全国に存在します。

多くは成人の女性が中心です。女性の発生が95%以上を占めるとのことです。

しかし、子どもの患者さんも数十名おり、子どもでは男女差が無いとのことでした。

まあ、普通男性は石鹸をわざわざ取り寄せることなどありませんからね。自らを省みてもそう思います。

子どもに関してはお母さんがきっと使ってあげたのでしょう。

まあ、普通子どもは石鹸をわざわざ(以下略)

 

なお、石鹸の販売数は4000万個以上、使用者はメーカーが把握しているだけで400万人以上いるとのことです。

成人女性の10人に1名が使用していると考えてもいいでしょう。

しかし、アレルギー症状が発生したのは使用者2800名に1名程度とのことでした。

大体1万分の4くらいの確率でしょうか。

・・・わかりにくいですね。サイコロを5回振った時に全部1の目が出来る確率よりも少し低いくらいです。

 

ただし、アトピー性皮膚炎では明らかにアレルギー症状が出やすいことがわかっているようです。

 

これはなぜか?

アレルギーの反応が最初に皮膚で起きたと考えられるからです。

石鹸ですから、毎日毎日顔の皮膚に接触します。

もともと顔面あ皮膚が薄いためにアレルゲンの吸収は体に比べて起こりやすいのです。

また、石鹸の界面活性剤で皮脂の減少が起き、皮膚のバリアが傷害される。

アトピー性皮膚炎のように湿疹になっている皮膚からはよりアレルゲンが入りやすくなる。

また、瞼の粘膜は皮膚よりもアレルゲンの吸収が良い。

ということで最初の症状は目のむくみで始まり、ついで顔の皮膚のトラブルとなっていったと考えられます。

 

次になぜ全身に症状が進展するようになったのかのお話です。

今回の茶のしずく石鹸のアレルゲンはグルパール19Sと呼ばれる蛋白質でした。

これは小麦を加水分解する事により出現する蛋白質ですが、

逆に言えば、小麦の中にも必ず含まれていることになります。

このグルパール19Sを顔から吸収し、アレルゲンと認識してしまうと、

お腹から入ってきた小麦に対してアレルギー反応を起こしてしまい、

腹痛や下痢などの腹部症状、ひいてはアナフィラキシーショックを起こしてしまうのです。

 

少し話が長くなったので診断、治療の話は次にしましょうか。